一般社団法人日本骨盤矯正普及協会 代表理事 梶田 了
「産後は骨盤が開くから、早めに矯正した方がいいよ」
出産を経験した方なら、一度はこんな言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
友人から、助産師さんから、あるいはSNSの広告から。
でも、ふと立ち止まって考えてみると、こんな疑問が浮かびませんか。
「開くって…どのくらい開いてるの?」
骨盤はレントゲンのように自分で見ることができません。触ってみても、正直よく分からない。だから「なんとなく気になるけど、まあ動けてるし、いいか」で何ヶ月も、場合によっては何年も過ぎてしまう。
当協会には、全国の骨盤矯正の現場から日々さまざまな症例や知見が集まってきます。今日はその中から、「骨盤が開く」とはどういうことなのか、できるだけ具体的な数字を交えてお伝えしてみたいと思います。
骨盤は「一枚の板」ではない
まず前提として、骨盤の構造を簡単に整理させてください。
骨盤は一枚の大きな骨ではありません。左右に大きな骨(腸骨)があり、真ん中に逆三角形の骨(仙骨)、そして前側で左右の骨をつなぐ恥骨。これらが組み合わさってできた「器」のような構造です。
妊娠中、赤ちゃんが産道を通れるように、リラキシンというホルモンが分泌されます。このホルモンの働きで、骨盤の関節や靭帯がゆるむ。これが「骨盤が開く」と言われる現象の正体です。
産後、ホルモンの分泌が落ち着けば、骨盤は自然に元の位置へ戻ろうとします。
ただし、ここに落とし穴があります。
産後すぐに始まる育児。抱っこ、授乳、おむつ替え。同じ姿勢の繰り返し、片側に偏った体の使い方。これらの負担が重なると、ゆるんだ骨盤が「戻りきらないまま固まってしまう」ことがあるのです。
「仙腸関節」という、ほとんど動かない関節の話
骨盤の話をするとき、見落とされがちな関節があります。
「仙腸関節」です。
仙骨と腸骨をつなぐこの関節は、体の中心にあり、上半身と下半身をつなぐ要の役割を果たしています。
ただ、この関節には大きな特徴があります。
正常な可動域が、わずか1〜4mm。角度にして1〜2度程度。
ほとんど動かない関節なのです。
「動かないなら問題ないのでは?」と思われるかもしれません。でも、実はその逆です。
動きが極めて小さいからこそ、たった1〜3mmのズレが体に大きな影響を与える。
慢性的な腰痛、お尻の奥の痛み、太ももの裏側のしびれ。仰向けで寝ると腰がつらい。朝起き上がるときにお尻のあたりがズキッとする。靴下を履く動作が痛い。
こうした症状の原因をたどっていくと、仙腸関節のわずかなズレに行き着くことが少なくありません。
そして厄介なのが、このレベルのズレはレントゲンやMRIでは映りにくいということです。
整形外科で検査を受けて「骨には異常ありませんね」と言われた。でも痛い。湿布を貼って様子を見てくださいと言われたけど、一向に良くならない。
当協会にも、こうした経験をされた方からのご相談が数多く届きます。画像に映らない「数ミリの世界」が、毎日の生活を地味に、でも確実につらくしている。これは決して珍しいことではないのです。
骨盤の「傾き」をセルフチェックしてみる
骨盤の状態を知るもうひとつの手がかりがあります。
仰向けに寝て、腰と床の間に手を入れてみてください。
指が2本以上すっと入る方は、骨盤が前に傾いている(前傾)傾向があります。いわゆる「反り腰」の状態です。腰に負担が集中しやすくなります。
反対に、指が2本入らない方は、骨盤が後ろに傾いている(後傾)傾向です。こちらは猫背になりやすく、肩や首にまで影響が広がります。
骨盤の正常な角度は約10〜15度と言われています。産後は、ホルモンの影響で関節がゆるんでいるところに、抱っこや授乳の姿勢が加わるため、この角度が崩れやすい時期です。
前傾でも後傾でも、骨盤の角度がずれると、その上に乗っている背骨、肩、首のバランスが全部変わります。
産後の腰痛、肩こり、頭痛。これらがバラバラの問題に見えて、実は骨盤という一つの土台から連鎖している。
全国の現場から集まる症例を見ていても、このパターンは本当に多いのです。
骨盤の「開き具合」を数字にする方法
骨盤矯正の現場では、骨盤の状態を数値化するためにメジャーを使った計測を行うことがあります。
計測するのは、左右の大転子(太ももの付け根の外側にある出っ張り)と恥骨の上、お尻を通るラインの周囲です。
これを2つの状態で測ります。
①仰向けに寝て、膝を立てた状態——力を抜いた「今の骨盤」。
②その姿勢からお尻を締めて、おへそのあたりに力を入れた状態——筋肉をしっかり使った「本来の骨盤」。
この①と②の差が、骨盤の「開き具合」を示す数値になります。
数字で見えると、「なんとなく不安」が「具体的な現在地」に変わります。どのくらい開いているのか、どこまで戻せる可能性があるのか。感覚ではなく、数値で把握できることの安心感は大きいものです。
「数ミリ」は、小さくない
ここまで読んで、「たかが数ミリでしょ?」と思われた方もいるかもしれません。
でも、考えてみてください。
家の基礎が数ミリ傾いたら、ドアが閉まらなくなります。窓枠に隙間ができます。壁にヒビが入ります。基礎そのものは「ちょっとズレただけ」なのに、その上に建っているもの全てに影響が出る。
骨盤も同じです。
体の土台が数ミリ、数度ずれるだけで、腰、背中、肩、首、頭——全身のバランスが変わる。産後のお母さんが感じている「なんとなくしんどい」「どこが痛いか分からないけど、とにかくつらい」という感覚の正体が、この数ミリの中に隠れていることがあるのです。
改善の目安と、知っておいてほしいこと
仙腸関節の機能障害に関しては、適切な施術と日常生活の見直しを組み合わせることで、1〜3ヶ月程度で変化を実感される方が多いと言われています。
もちろん個人差はあります。でも、「一生付き合い続けるもの」ではないということは、知っておいていただきたいのです。
産後は本当に忙しい毎日です。自分の体のことは、どうしても後回しになります。
でも、もし今「腰が痛いな」「抱っこがしんどいな」「寝ても疲れが取れないな」と感じているなら、それは骨盤からのサインかもしれません。
数ミリのズレは、自分では気づけません。
でも、骨盤矯正の専門家が見れば、数字で分かります。
「自分の骨盤、今どうなってるんだろう?」
その疑問を持てた時点で、もう最初の一歩は踏み出しています。
お近くの骨盤矯正の専門家に、一度相談してみてください。
この記事を書いた人
梶田 了(かじた りょう)
一般社団法人日本骨盤矯正普及協会 代表理事/ライフ快療院南浦和本店 院長。
施術歴20年以上、延べ5万人以上の施術実績。SOT(仙骨後頭骨テクニック)・筋反射テスト・アクティベーターメソッドを組み合わせた「かじた式骨盤整体」を体系化。骨盤矯正の正しい知識と技術の普及に取り組んでいます。
